【Vol.57】リノベる新オフィス移転レポート②/デザインしているのは「オフィス」ではなく「働き方」

2020.08.21
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【Vol.57】リノベる新オフィス移転レポート②/デザインしているのは「オフィス」ではなく「働き方」

新本社オフィスへの移転を計画中のリノベる。これからの働き方とは、リアルなオフィスの価値とは――。
リノベるピープル&カルチャー本部 本部長の安河内 亮と、都市創造事業本部 本部長の西郷 俊彦、プロジェクトを担当する建築家の塩浦 政也氏(株式会社SCAPE 代表)による座談会の後編をお届けします。(撮影:白根美恵)
※前編はこちら

成長途中のリノベるをどう体現するか

――コンセプトを固めていく上での難しさはありましたか?

塩浦
みなさんがよくおっしゃる「リノベるらしさ」って、「かしこい」とか「素敵」といった言葉が使われます。でも、だんだん分かってきたのは西郷さんが使う「かしこさ」と安河内さんが使う「かしこさ」って、ちょっとずつ違うんですよ。代表の山下さんが思っている「かしこさ」ももちろん違う。その部分を丁寧に紡いでいくのが難しかったですね。設計者ってどうしても、すぐテーマを設定したくなるんです。でも、今回はあまり答えを出さずに、ヒアリングに3ヶ月半ぐらい費やしました。

――その3ヶ月半にどんな発見がありましたか?

塩浦
いくつかキーワードが出てきたんですけど、大事なのは主語が「リノベる」であること。つまりものすごい成長企業で、多くの方がいて、ダイバーシティがある。良くも悪くもカオスみたいな「リノベるらしさ」が、今ちょうど作られている。それをどう体現するかが今回一番大きなテーマだと感じました。

安河内
リノベるらしさでイメージするものは、人によってちょっとずつ違っていて、その違っていること自体もリノベるっぽいなと思うんです。なぜかというと、お客さんがみんなそれぞれ違う思いを持っていて、それを形にするのがリノベるだから。画一的に「リノベるってこういうデザインです」と押し付ける会社ではない。今日もこのTシャツにパズルのピースのバッジを付けてますけど、「パズル」は組織のポリシーでもあるんですね。一人ひとり違うけど繋がると大きな絵になる。そういう発想です。

塩浦
僕にとってデザインていうのは、暗黙知、つまり「何かいいね」とか「らしさ」みたいな言葉になかなかできないものを、形式知化することだと思っているんです。それが第一段階のデザイン。形式知化する最初のコンセプトワードとして、3ヶ月半に及ぶ皆さんとの対話を経て、「Crossing Field」というテーマを出しました。それを皆さんに披露する日はドキドキでしたね。3ヶ月半聞いといてこれか、って言われたらどうしようと思って(笑)。

周辺の文脈を読み解く作業


――どんな意味が込められているのでしょうか。

塩浦
まず、先に完成した大阪のオフィスが「Borderless field」というコンセプトで、そのストーリーをお聞きしていたんですね。今回の新オフィスも、単体のプロジェクトではなくて、壮大なリノベるという物語の第何章かになる。大きな視点で大阪との連続を考えて、ペアにしたかったんです。

――Crossing の意味は?

塩浦
直感レベルの話ですが、単純にいろんな方が交わる場所にしたいというところからスタートしています。リノベーションって、古い家に新しい壁紙を貼るっていうことじゃなくて、まぁそれも現実にはやるんだけど、もともとあった空間の物語をどう自分たちなりに解釈してリスペクトするか、が問われるんですね。例えば西郷さんチームが作った大阪オフィスに金色の手すりがあるんですけど、その理由を聞いたら、「オフィスから向こう側に見える歴史的建造物の手すりが金色なので、そこから紐解いてこっちに持ってきてます」っておっしゃるんです。そのぐらい周辺の文脈まで気にしている。それで、新オフィスの場所となる青山や骨董通りについて調べてみたんです。ちょっと話が長くなるんですけどいいですか?

一同
どうぞどうぞ(笑)。

塩浦
青山の地名は、江戸時代の武将・青山忠成の屋敷があったことに由来しています。その家来が辰村組というゼネコンを金沢で作ったんですね。2代目辰村米吉氏は、茶道の家元でもあって、芭蕉所縁の茶室に住んでいた。そしてその家を設計したのが野生司義章という日本を代表する近代建築の巨匠なんです。野生司さんは、日本住宅公団の、最初の住宅のプロトタイプを作ってもおられます。つまり、リノベるがいまやっている仕事のずっと前に、日本の新しいライフスタイルを作って来た。これはものすごい縁だと思いませんか? いろんな文化の交錯点、交差点ですよね。だからCrossing Fieldなんだ、というところまでお話しして、ご納得いただきました。

100かゼロかの情報収集になってしまった

塩浦
一方では、もうすこし足元レベルでのヒアリングもしました。ものすごく成長している中で、社員の皆さんはちょっと疲れている、忙し過ぎて仕事が回らない、という状況も見えてきました。上司からいきなり振られて、いきなりアウトプットするとか意思決定は早いんだけど、みんなで意見を交わし合うとか、一見意味のないような雑談をするとか、そういったものが抜け落ちている。

――実際の社員からそういう声があった?

塩浦
いや、もう見ていれば分かります(笑)。リノベるの社員の方々、みなさんとにかく歩くスピードが早い。会議のスタートと終わりの時間がものすごくきっちりしていて、それは素晴らしいんですけど逆をいうと意思決定のプロセスがしっかりしていて遊びがない感じがしたんです。ここからぐっと伸びるために、もう一回余裕を持ちましょうっていうのが僕からみなさんに対してお伝えしたいメッセージ。

安河内
その通りですね。コロナ以降は、勤務場所を本社以外のショールームにも分散したので、僕もショールームにひたすらこもっていました。そうすると情報が会議でしか得られないんです。会議では情報が100入ってくるけど、それ以外はゼロ。100かゼロかの情報の収集パターン。でもこうやって会社に来ると、その辺で偶然会った他の部門のメンバーにちょっと声かけられたりして、「最近こうなんですよ」みたいな話ができる。特に僕は人事もみているので、そういう話が実は大事だったりします。でもわざわざそれをオンライン繋いで言わないですよね。クロスする場が意図的に作れたら、在宅では得られないし、オフィスを構える意味において、これからの時代になおさら価値の高いものになると思いました。

オフィスの中に「家(うち)」と「路(みち)」と「街(まち)」

――コンセプトが固まって、次の段階は?

塩浦
統一的なモットー、クリティカルコアバリューと言ってますけど、「こだわりポイント」を作るのが次の仕事になります。何席入るかとかトイレの場所とか、そういう作業ももちろんありますが、それは設計とは言わずに、検証作業ですね。ヒアリングであぶり出した4つのグリッド(課題)にクロスを入れることで9つのグリッドができるんですが、それぞれで働くということの解像度を高めていく。9つの働くというアクティビティを支える空間ポイントとして出したのが「家(うち)と路(みち)と街(まち)」というキーワードです。オフィスの中に交差点があり、街的なもの、例えばライブラリーやカフェがある。さらにこれがリノベるの真骨頂ですが、オフィスの中に家も作ってしまう。家よりも落ち着ける、靴を脱いであぐらをかきながら仕事できるぐらいにリラックスした場所を作ろうと。

安河内
「家(うち)と路(みち)と街(まち)」のキーワードで、一気に頭の中の整理がついて進んだ感じがありましたね。素材選びなども含めて。素材とかは、やっぱり設計チームはすごいこだわりがあるので。自分の好みみたいな話になってきちゃうと収拾がつきません。でも「家」のコンセプトで見たときの素材、「路」のコンセプトで見たときの素材、って見ていくとある程度ガイドラインができる。それを塩浦さんが作ってくれて、議論がどんどん前に進んでいきました。

西郷
言語化が上手ですよね。「言葉はエンジンだ」ってある建築家の方が言っていましたが、その通り。迷ったときに、「Crossing Field」とか「家(うち)・路・街」に立ち返るとぶれないし、決めやすい。

塩浦
僕は整理しただけで、全てみなさんとの議論の中から出てきたものです。出てくるまで、それが何かわからない。

安河内
そういう混沌としたタイミングも所々ありながら、毎度紡ぎ出されるという感じがあって。だからこそ納得感が強いです。

デザインしているのは「オフィス」ではなく「働き方」

――最後に改めて、リノベるが考えるこれからのオフィスとは。

安河内
これから先もリモートワークは積極的に活用していきますが、集まることの価値はなかなかオンラインでは出せない。スケジュールに登録されている会議は、オンラインでも充実してきているけど、スケジュール表に表せない、人との繋がりやちょっとした会話で発見できるものってやっぱりある。クロスによって生まれるアイデアが絶対にあると思います。

西郷
「間(ま)」みたいなことがオフィスの中にどうあったらいいのか。オンライン/オフラインのリアルとバーチャルがどうつながるのか。完成形を渡されるのでなくて、塩浦さんは、利用者を信じてボールを投げてくれる感じ。僕らは利用者としてどう使っていけるか、どういう働き方を示せるのか、今後のテーマになるのかなと思います。

塩浦
今回ものすごく勉強になってますけど、みなさんと議論しているのは「オフィスのデザイン」ではなく「働き方のデザイン」なんですよね。暮らしの中にある働き方をどうするか。そういう意識が強い。僕のイメージとしては、プロの料理人の厨房を作っているイメージ。5つ星とかの料理人の厨房ってそっけないですよね。でもそこからいろんな料理が出てくる。「デザインされた空間」ではなく、「デザインするための空間」を作る、それが今回のポイントだと思っています。

西郷
柔軟な空間がきっと与えられるので、どう使っていくか、かなり試されている気がしています。


――1年後の姿も、ぜひレポートしたいですね。

安河内
どんどんアップデートされていると思います。

塩浦
リノベるは毎月違うことが起きるので。設計中もレイアウト変更を5、6回やっているぐらい。常に動いているので、完成という言葉はない。竣工はしますけど、そこからがスタート。

安河内
アメリカでも、一時はオフィスをなくす流れもありましたが、最近はまたみんながオフィスに戻ってきているという話もある。みんなオフィスっていう場所をどう使っていいかわからなくなっちゃっているのが現状です。
オフィスをどうするかではなく、「働き方どうするの?」という問いに対して、誰かのモノマネじゃなく自分たちで深く深く考える。その先にしか答えはない。そこにたどり着けたらいいのかなと思います。

 

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