東京渋谷を拠点とする株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)。多種多様な事業・サービスを展開する同社のサテライトオフィスのリノベーションデザインを、リノベる 都市創造事業部が担当させていただきました。
今回は、DeNAでIP創出を手掛けるIPプラットフォーム事業部のオフィス移転。以前、関連企業が入居していたオフィスを引き継ぎ、既存の設備等を活かしつつ新たな用途・コンセプトにあわせて再構築するプロジェクトです。
課題となったのは、そのスケジュール。プランニングから設計施工までを約2.5ヶ月でというオーダーでした。この短期集中型のプロジェクトをいかに進めていったのか――。今回のオフィス移転をリードされたDeNA IPプラットフォーム事業部の芹川太郎さんと一緒に振り返りました。
聞き手は、今回のプロジェクトでPMを務めたリノベるの高津です。
―― 移転されて約半年になりますが、新しいオフィスはいかがですか?
芹川
社内のコミュニケーションがずいぶん増えたと感じています。「居心地のいい空間を」という思いで作ったオフィスですが、実際に社員のオフィス滞在時間が伸びました(笑)。
―― なるほど(笑)。最初にご相談をいただいたのは昨年(2017年)の年末でしたよね。
芹川
そのタイミングで「1月には引越したい」とお話させていただきましたよね。でも、本当にそのスケジュールで大丈夫なのかと。
――「居抜き」(前入居者が退去したまま、あるいは内装や設備・什器の一部が残ったままの状態になっている物件)ではあったので、おそらく間に合うだろうと想定はしていましたが、とはいえ余裕のないスケジュールにはなるなと覚悟していました(笑)。
芹川
短期間で仕上げていただいて、本当に助かりました(笑)。
今回のオフィス移転には、もともと関連会社が使っていたオフィスに空きが生じたものを、いかに空室期間を圧縮して次の用途にシフトするかという目的もあったので、スケジュールは最優先事項だったんです。
とはいえ、どんな内装・レイアウトでも構わないというわけでは決してありません。すべてのスタッフにとって理想的なオフィスを模索し、形にする必要がありました。
芹川
IPプラットフォーム事業部はもともとヒカリエのオフィスに席を設けていたんですが、組織拡大に伴い、ヒカリエには収まりきらない状況になっていたんですね。
私たちは「マンガボックス」というマンガアプリを運営しているのですが、そのコンテンツに携わる編集者のチームだけ別のビルを借りていたりと、非常にやりにくい部分がありました。
会議室も慢性的に不足していました。会議室の空き時間にミーティングをあわせるようなことが常態化し、著しく生産性が落ちていて。
当社は、ものごとがトップダウンで決まりスタッフが作業員として動いていくような組織ではなく、さまざまな意思決定を現場が担い、その総体として組織が動いていくタイプの会社です。つまり、小さな単位でのミーティングとにかく多い。
そのため、メンバーの同士のコミュニケーションがしやすい環境、特に1対1や3〜4人での打ち合わせができるミーティングスペースであったり、カジュアルに話せる場所をたくさん設けたいという要望が強くありました。
―― 今回、かなり早い段階で、社員の方々にアンケートをとっていましたよね。
芹川
そうですね、全社員にオフィスに対する要望をヒアリングしました。
コミュニケーションを重視する一方で、エンジニアやデザイナー、編集者といった職種には集中型の個人作業も不可欠です。皆が実際にどのような働き方を求めているのか、そのバランスを見極めなければと考えました。
―― 私もアンケート結果を見せていただきましたが、予想以上に多様というか、ばらつきがありましたね。
芹川
作業に集中するための“自席”を大事にする声もあれば、気軽にコミュニケーションがとれる環境がほしいという声もあったり、逆になるべく話しかけられたくないという声もありました。
そうしたそれぞれの要望を、固定のデスクで実現するのか、それ以外のフリースペースで実現するのか……単純にAかBかの二択では決められないものがほとんどでした。空間全体としてどうバランスをとって実現していくか試行錯誤が必要で、リノベるさんとのコミュニケーションはかなり密にとらせていただいたと思います。
―― そうですね。居抜きを前提としたプロジェクトだったので、なおさら意思疎通が重要だったと思います。たとえば会議室は組み上がっている既存のものをそのまま活用する必要がありました。そうなると、会議室と会議室の間のスペースも変更することもできず、そのスペースに何席分のデスクが入れられるかも自ずと決まってしまいます。そこにどう手を入れていくか、常に会話を続けながらすり合わせて。まさに二人三脚でしたよね。
芹川
しかも、それをいかに短期で実現するか。結論、工事申請が必要な大掛かりな作業をできる限り避けて、テーブルや囲いといった家具を設置することで要望を形にしていくというリノベるさんのご提案は正解だったと思います。
―― 実際にオフィスを使ってみて、特に「これは作ってよかったな」というものはありますか?
芹川
まずは、このカジュアルなブースとスタンディングデスクのエリア。ここは思っていた以上に活用されているようで、午後になると常に埋まっていますね。事前にわざわざ会議室を予約しなくても、いつでもすぐに打ち合わせできるようにと用意したものですが、あまりに人気なのでもう2ブースほど追加してもいいなと。
あとはやっぱり、フリースペース。オフィスって、ちょっと遊んだりできる場所があるほうがいいんですよね。デスクを離れて気分転換できる環境が社内にあるというのが、実は重要なのかなと。
ちょっとしたミーティングが開かれていたり、気分をかえてここで個人作業をやっているスタッフがいたり、そういうシーンも結構多いですね。逆に、夕方くらいになってくると、奥のほうのスペースにこもって集中する人が増えてきます。
同じ人でも、時間帯やその時々の仕事によって、オフィスの使い方は変わるんですよね。発散したいときと集中したいときで、求めるものは明らかに異なりますし、それを自分のデスクだけでカバーしようとするのは難しい。
1日を過ごすオフィスという空間にはやはり柔軟性や余白が必要で、今の空間ではそれを実現できたんじゃないかなという手応えはあります。
―― 私たちとしても、住宅リノベーションで培ってきたノウハウを、オフィスの居住性向上につなげることができたのかなと。オフィスではあるものの、住宅と同じように、過ごしやすい空間を意識してデザインしたので、そう言っていただけるのは非常にありがたいですね。
この自由度の高い空間を、社員の皆さんそれぞれが思い思いに使いこなしていただけると嬉しく思います。今回はありがとうございました。
クリック/タップで拡大します。