【vol.29】集中力不足は“部屋”のせい? 世界一集中できるワークスペース、ジンズ「Think Lab」の空間づくりを紐解く

2018.04.23
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【vol.29】集中力不足は“部屋”のせい? 世界一集中できるワークスペース、ジンズ「Think Lab」の空間づくりを紐解く

東京・飯田橋にあるオフィスビル。その29Fに、昨年末、新たなワークスペースがオープンしました。アイウエアブランド〈ジンズ〉が手がける会員制スペース「Think Lab」(シンク・ラボ)です。

注目すべきは、そのコンセプト。「世界一集中できる場」というビジョンを掲げ、目の前のタスクに深く入り込む“超集中状態”を作り出すための空間設計が施されています。予防医学研究者の石川善樹氏、建築家の藤本壮介氏が監修者に名を連ね、継続的なアップデートを予定しているそう。

そこから生まれた方法論を、住空間にも活かすことができないか――。今回は「集中できる空間づくり」のポイントを探るべく、Think Lab の開発担当者である株式会社ジンズの井上一鷹さんにお話を伺いました。

井上一鷹 Kazutaka Inoue / 株式会社ジンズ JINS MEME事業部 事業統括リーダー。1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルに入社し、大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年に株式会社ジンズに入社。社長室、商品企画グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て現職。学生時代に算数オリンピックアジア4位、数学オリンピック日本最終選考に進んだ経験がある。

 

なぜジンズが空間づくりを?

井上:
当社は〈JINS MEME〉という、メガネをかけるだけで集中の深さや時間を測定できるウェアラブルデバイスを販売しているのですが、このデバイスを企業向けに提供し、ワークスタイルのコンサルティングを行なうサービスも展開しています。

そこで分かってきたのが、あまりに多くの方が、オフィスで集中できていないという事実です。一般的なオフィスのほとんどは、集中という観点でみると極めて劣悪な環境なんです。

クリエイティブ系の仕事をされている方など、「集中したい日は会社に行かない」なんてことを本気で仰っている方も。こうなるともはや、オフィスにどんな存在意義があるのか分かりません。

JINS MEME

 

東京に、高野山をつくろう。

人は、何かに集中しようとして深い集中状態に入るまでに、23分かかると言われています。

しかし現代人のワークスタイルでは、11分に1回の頻度で話しかけられるか、確認しなくてはならないメールやチャットが飛んでくる。言わば、同僚とPCとスマートフォンに、集中が阻害されているんです。

「コミュニケーション」と「集中」は、仕事においてどちらも重要な要素ですが、今のオフィス環境はコミュニケーションに偏りすぎています。集中できる場所があまりに少ないのです。

ならば、私たちがやるべきではないかと。「東京に、高野山をつくろう」という思いから始まったのが、Think Lab です。

 

集中状態に入るためのルーティーンを、空間に組み込む。

Think Lab の空間づくりには、「構造」と「要素」、2つの側面で特徴があります。

まず「構造」について。Think Labでは、利用者が無意識的・強制的に集中状態に入れるようにするために、構造的に“ルーティーン”を作っています。

人が集中するには、「緊張」と「リラックス」という相反する2つの感覚を同時にオンにしなければなりません。深い集中状態において、人は交感神経と副交感神経が同時に優位になっています。

いわゆる「ゾーン」といわれる極限の集中状態ですが、この集中に入るためには絶対のプロセスがあります。一度、緊張した状態を作った上で、パッとリラックスさせる。この手順を踏む必要があるんです。先にリラックスから入ってしまうと、集中するのは非常に難しいんですね。

Think Lab では、エントランスからワークスペースに至るまでの通路を、あえて真っ暗な、閉ざされた空間に仕上げています。

暗くてまわりが見えにくいので、必然的に注意深く周囲を確認しながら歩くことになり、神経が自ずと研ぎ澄まされます。

 

 

緊張感が高まった状態で、ワークスペースへのドアを開ける。すると、パッと開けた空間に出て、一気にリラックス状態へ。

 

 

このフローは、メジャーリーガーのイチロー選手が徹底している打席でのルーティーンにも通じるものです。イチロー選手は打席に入ると、バットを持つ右手を思い切り前に伸ばし、そのバットの先を眺める動きをとっているのですが、遠くを見ると人は交感神経が優位になり、緊張感が高まるんですね。

その後、袖のあたりをこするような動きをとっているのですが、あれは袖口に仕込んでいるグレープフルーツの香りをかいでいるそうなんです。そうして、緊張からリラックスの流れを作り、集中状態に入っていると。

イチロー選手のように、誰もがそれぞれのルーティーンを持つことができればいいのでしょうけど、なかなかできるものではありません。そこで Think Lab では、歩くだけで同じ効果が得られるよう、建物の構造にそのメカニズムを組み込むことにしました。

 

デザインと演出で、“五感”をハックする。

もう一つ、「要素」について。私たちが〈JINES MEME〉を使って実験と検証を重ねた結果、集中レベルを上げるための方法は、25種類に分類されることが分かりました。

例えば、いつ・どこで・どんなことをするのが集中できるか、TPOを最適化する。Wi-Fiを切る。食事のとり方を変える。寝る前スマホをやめて睡眠を改善する……。

このような具体的なテクニックを整理していくと25種類に集約されるのですが、そのうちの「環境」に起因する要素にフォーカスして作ったのが、Think Lab です。

環境要因のなかでも特に大きいのが、人の“五感”に働きかけるもの。それを空間設計によってコントロールしています。

観葉植物は、視野の10%〜15%を占めるように配置

いくつかご紹介しますと、視覚情報に関してはまず「植物」。観葉植物も、置けば効果があるというものではありません。視界に入る植物の量を、視野角120度内で10%〜15%に収めるのが、ストレス低減に最も効果的。植物の種類も、ものによっては逆にストレス値を高めてしまうという研究結果もあります。

 

Think Labでは、どこにいても視野角120度のうちの10%〜15%に植物が入るようレイアウトされている。

パワースポットの音を、可聴域を超えた音域まで再現

次に聴覚ですが、Think Lab のワークスペースでは、パワースポットで録音した環境音が常に流れています。いわゆるリフレッシュ効果のある場所の音を、人間の可聴域を超えた、いわゆる“肌で感じる音”まで含めてすべて再現しています。

しかも単に流しっぱなしにするのではなく、その時々にあわせて「同じ季節」「同じ時刻」に現地で録音された音を流すようにしています。

香り・気温・CO2濃度を、自分自身に最適化

嗅覚に関してですが、香りはあまりに好き嫌いの差が激しいため、今のところ高野槇という高野山の香りを焚くにとどめています。リラックス効果というより、スイッチを入れる効果を狙ったものです。

一方、室内の空気に関しては、IoTデバイスの〈Netatmo〉を各所に設置し、気温とCO2濃度を常時測定しています。この2つの要素は集中との相関がみられるものなのですが、こちらも個人差が大きいため、Think Lab では測定値を確認しつつ、ご自身で最適な場所を探していただくようにしています。

Netatmo:
Netatmo社が展開する、“大気”の情報を計測するセンサーデバイス。温度や湿度、CO2濃度などの空気の質を測ることができる。

朝・昼・夜、時間の流れにあわせて明るさを変える

“明るさ” も重要ですね。サーカディアン・リズム、いわゆる体内時計は「光」と「食事」で決まります。夜遅くに食事をとると、リズムが崩れて眠れなくなったりしますが、「光」の影響も同様です。

蛍光灯の光は、基本的にお昼の光です。明るい蛍光灯の下で長時間を過ごすのは、実は人間の身体にとって非常につらいことなんです。Think Lab では、時間にあわせて照明の明るさを変えており、外が暗くなれば部屋のなかも暗くなるようにしています。

 

時間の流れにあわせて室内の明るさを調整。これが、集中の前提となる「心身のコンディション」に大きく影響するという。

 

自宅のワークスペースを、“集中できる空間”にするためには?

一つポイントを挙げると、リラックスのための空間と集中のための空間を分けて、脳に「違う場所」だと認識させることです。

スマートフォンなど日常的に使うツールにも同じことが言えるのですが、仕事や読書のような作業と、ゲームや動画閲覧のような行為を一台でカバーするスマートフォンは、集中作業には基本的に不向きです。集中か遊びか、どちらのモードに切り替えればいいのか脳が混乱してしまうんですね。

ワークスペースも、椅子や机から細かく作り込むことができればベストなのですが、個人の住宅だとどうしても物理的な制約や予算の問題があると思うので……。そうですね、例えばPhilipsの〈Hue〉のような細かい調光が可能な照明を使って、「シーン」を分けられるようにするのは有効だと思います。

Hue:
Philips社のスマートLED電球。Wi-Fi接続により、スマートフォン等のデバイスでON/OFFや色調・明るさを簡単に調整できる。

 

白色系の光では、絶対にくつろいだり遊んだりしないようにする。徹底すればするほど、その環境下での集中作業に対するコミットメントは上がります。逆に、暖色系の光ではリラックスしかしない。このように、シーンによる切り分けができる空間だと、ゾーンに入りやすくなるはずです。

 

Think Labでも、集中のためのスペースとコミュニケーションのためのスペースとで、全体のトーンを大きく変えている。

 

もし空間の色調にもこだわれるのであれば、“黒”を基調にした構成にすると、より効果的でしょう。Think Lab も全体を黒基調で統一していますが、これは黒がもっとも情報量の少ない色だからです。

環境によって集中レベルを高めるには、入ってくるムダなノイズを、とことん削る必要があります。白い床、白い壁だと、少し汚れているだけでも目につきがちですよね。それだけ認知リソースがとられてしまっているんです。

その観点でいうと、文字もないほうがいいですね。心地よさを二の次にして没入型の集中に最適化しようとするのであれば、とにかく情報量を減らすこと。これがポイントです。

集中とは、時間の濃密さを高める行為。1日が24時間なのは変えられませんが、その濃度は環境によって変えることができます。

現代は働きながら子育てをする方も多く、また副業推進の流れなどもあり、住まいの中で「集中」が求められるシーンはこれからますます増えていくと思います。工夫の余地はまだまだ残されているので、必要性を感じた方はぜひチャレンジしていただきたいですね。

 

Think Lab について

  • アクセス
    東京都千代田区富士見二丁目10番2号 飯田橋グラン・ブルーム29階
  • 時間
    平日 : 7:00-23:00(有人受付は9:00-23:00)
    土日祝日 : 9:00-18:00
  • 料金
    Drop In:¥1,500 / 時
    Open Desk Member:¥70,000 / 月
  • WEB
    https://thinklab.jins.com/
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